【永久保存版】宅急便はどのように普及したのか(後編)

2018年09月09日

前編では、「宅急便がどのように普及したのか」というテーマについて整理するために、ヤマト運輸の創業から業績悪化までの歴史を整理しました。

宅急便はどのように普及したのか【前編】

後編では、いよいよ「どのように宅急便を成功させたか」という点について、具体的な戦略・戦術とともに切り込んでいきたいと思います。


「電話」「航空」など既存のネットワーク事業を参考に独自の計画を立てる

宅急便事業をはじめるにあたって一番の問題は、「どうやって荷物を集めるか」という点にありました。

商業荷物と違って、個人の荷物は偶発的・非定型的に発生します。

一見ランダムに見える宅配ニーズを、どのようにして事業として成り立たせるのか。


考えているうちに、昌男氏の頭に一つの疑問が浮かびます。

「個人の宅配需要は、本当に偶発的なのか?」

個々の宅配需要は偶発的でも、全体として眺めれば大きな流れがあるのではないかと考えたのです。

全体に規則性があれば、対応は不可能ではありません。

昌男氏は、「全国規模の集配ネットワークを築けば、ビジネスになる」という仮説を立てました。


そうして出てきたのが「取次店の設置」というアイデアです。

酒屋や米屋など、主婦がいつも行くような商店に取次店になってもらい、荷物を預かってもらう。

取次店には、預かった荷物ごとに手数料を支払う。

主婦は買い物ついでに荷物を預けられますし、取次店にとっては手軽に得られる副収入となります。


次の問題は、拠点をどのくらい作ればネットワークとして成立するかです。

航空事業では「ハブ・アンド・スポーク」と言って、少数のハブ空港を中心に多くの地方空港に接続便(スポーク)を飛ばすことで、効率の良いネットワークを構築しています。

昌男氏はこの仕組みを参考にして、都道府県ごとに最低一か所の「ベース」、ベースから荷物を運び出す「センター」、センターへの荷受を行う「デポ」という3階層のネットワークを発案しました。

「ベース」は都道府県ごとに一か所あればいいとして、「センター」はどのくらいの数を作ればいいのでしょうか。

他の施設が全国にいくつあるかをピックアップしてみてたところ、警察署が全国に1,200ほどあることに気づきました。

地域の治安を維持するのにそのくらいでいいなら、ヤマト運輸の営業所もそのくらいで間に合うのではと考えます。

全てを賃貸でまかなえば、当時のヤマト運輸にもなんとかできそうでした。


個人向けの配送ネットワークが成立するとしたら、さらに考えるべきは「実際に儲かるようになるのか」という問題です。

当時、個人向け輸送は絶対赤字になると思われていましたが、昌男氏は「電話事業」の事例から次のように考えました。


電話事業は当初、国営でスタートしました。

NTTグループのあゆみ

戦後しばらくは全ての家庭に電話があるわけではなく、業務用が主な用途でした。

それが次第にすべての家庭に電話が普及することになり、それに連れて利用度が高まり、徐々に儲かるビジネスになっていきました。

初めのうちは、電話事業でも「儲かる地域」「赤字の地域」が混在していたはずであり、一部で赤字の地域があっても、黒字の地域がそれを上回れば、全体として利益が出ることになります。


最初はネットワークを作ること自体にコストがかかり、利用度も低いため必ず赤字になりますが、徐々にネットワークが拡大して利用度が高まれば、いずれ損益分岐点を超える。

このように、「ネットワーク型」事業の本質を早くから見抜いていたところに小倉昌男社長のすごさがありました。


個人向け宅配においても同じように、「ネットワークの損益分岐点を超えれば利益が出る」というのが昌男氏の出した結論でした。


さらに昌男氏は、「ネットワーク全体の収益性」を「集配車一台あたりの損益」にまで具体化して考えました。

ネットワーク全体の損益について予測するのは難しいですが、一台の集配車で1日にいくつ荷物を扱えば儲かるかというのは、人件費や配送コストを計算することで分かります。

そのようにして、昌男氏は4〜5年くらいで利益がでるようになるという予測を立て、「個人向けの宅配事業は絶対に儲かる」という確信を深めました。


「翌日配送」を可能にする物流オペレーションとは

採算が不確かだと思われていた個人向け宅配事業について、絶対にそれを克服できると確信を持った昌男氏は、社内で新事業のための根回しをはじめました。

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