東インド会社が源流!香港を牛耳るコングロマリット「ジャーディン・マセソン」の全貌に迫る

2018年11月12日

今回取り上げるのは香港に拠点を置く「ジャーディン・マセソン」です。

公式HP

2018年9月に上場した「テノ.ホールディングス」池内比呂子社長の経歴に「ジャーディン・マセソン」という見慣れない企業名があり気になって調べてみると、驚くことにその源流はイギリス東インド会社にあるといいます。

彼らはアヘン戦争にも深く関わっていたとか。

今回は設立から170年以上が経った今もなお強大な影響力を持つ巨大企業「ジャーディン・マセソン」の全貌に迫っていきたいと思います。


アヘンを密輸する貿易商社として設立

ジャーディン・マセソンは1832年、Scots William Jardine氏とJames Matheson氏の2名によって中国・広東で設立されました。

東インド会社による中国貿易の独占状態が終わった後、イングランドへ茶の輸出を開始します。

Jardine Matheson Group History

同時にアヘンの密輸も行なっており、ジャーディン・マセソンのロビー活動がアヘン戦争勃発の引き金になったとされています。

ちなみに、彼らが香港で稼いだ資金をイギリスへ送金するために設立されたのが「香港上海銀行(HSBC)」です。

アヘン戦争終結後に香港へ本社を移転し、上海にもオフィスを設立して貿易事業を本格化させました。


1854年に日英和親条約が結ばれると、日本への進出も開始しています。

横浜で日本初の外国商業会館をオープンしたのはジャーディン・マセソンで、幕末に活躍したトーマス・グラバーも社員の一人です。

グラバー園

グラバー氏は1862年にジャーディン・マセソンの長崎代理店として「グラバー商会」を設立。

世界遺産にもなっている「グラバー園」はもともとジャーディン・マセソンの事務所だったようです。


1876年に中国初の鉄道を建設し、紡績業や炭鉱での石炭採掘をはじめとする資源事業も強化。

不動産開発とインフラ整備によって中国での支配力を高めていきましたが、第二次世界大戦後に中華人民共和国が設立されると中国本土にある支店は全て閉鎖に。

本社である香港オフィスのみが存続できる状態となりました。

ジャーディン・マセソンは資源輸出入が中心のビジネスから構造転換に着手し、1963年に高級ホテルチェーン「マンダリンオリエンタル」をオープン。

香港初の商業銀行「Jardine Fleming」(2000年にJPモルガンが買収)設立に携わり、イギリス国内で保険会社を買収して金融事業を開拓していきます。

メルセデス・ベンツの販売代理店「Zung Fu」を買収して自動車市場にも参入。

セブンイレブンの香港上陸(1981年)に携わったのもジャーディン・マセソンです。

1990年代後半のアジア通貨危機をきっかけに、シンガポールやインドネシアなど東南アジア各国へ次々と進出していきました。

現在はWilliam Jardine氏の末裔であるSir Henry Keswick氏が会長を務めており、世界各地で44万人の従業員が勤務しています。

グループ全体の売上高は395億ドルで、投資資産の公正価値(Change in fair value of investment properties)を考慮した営業利益は82.9億ドルほど。

営業利益は21.0%まで上昇しており、2013年以降は収益性が高まっています。


投資部門の売上が全体の80%以上

多様な事業を展開するコングロマリットであるジャーディン・マセソン・グループは、大きく2つの企業体で構成されています。

事業部門である「ジャーディン・マセソン」では貿易事業や自動車販売などを行なっています。

投資会社である「ジャーディン・ストラテジック」はアジア各国の企業に事業投資を行なっており、傘下には不動産投資を行なう「HonKong Land」や高級ホテルチェーン「マンダリン・オリエンタル」などを抱えています。

ジャーディン・マセソンの売上は79億ドルと堅調に推移。

ストラテジックの売上は316億ドルに達しており、グループ売上全体の80%を占めています。


インドネシアの自動車市場を支配する「Astra」が傘下

「ジャーディン・ストラテジック」の主な出資先は5社あります。

不動産投資を行なう「HongKong Land」や小売チェーンを展開する「Dairy Farm」、高級ホテル「マンダリンオリエンタル」は香港が拠点の企業。

「Jardine Cycle & Carriage」はシンガポールやベトナムで自動車販売を行なっており、インドネシアのコングロマリット「Astra International」にも出資しています。

売上の大部分はAstra InternationalとDairy Farmが占めており、ジャーディン・ストラテジック全体の80%以上を構成しています。

グループ全体にとって重要な存在である2社について詳しくチェックしていきましょう。


「Astra International」

Astraはインドネシアを拠点として様々な事業を展開するコングロマリットです。

Astra International

自動車製造や販売、農業、物流、ITまで様々な事業を展開しており、社員数は約22万人にものぼります。

特にすさまじいのが自動車部門。

プジョーやBMWとインドネシアでの独占販売契約を結んでおり、トヨタとは合弁会社「PT Toyota-Astra Motor」を設立して生産機能も担っています。

Astraの生産台数はインドネシア国内最大を誇るとのこと。

新車販売市場はAstraの独占状態で、自動車が54%、バイクに至っては75%のシェアを握っています。

ASEAN最大の自動車市場であるインドネシアの自動車流通を牛耳るAstraは、ローン販売等の金融サービスも好調。

金融サービスによる営業利益はAstra全体の30%を占めるまでに増加しています。


「Dairy Farm」

香港を中心にアジア各国で小売チェーンを展開するのがDairy Farmです。

Dairy Farm

彼らは香港やシンガポール、インドネシアなど東南アジアで、大手チェーンのフランチャイズ展開を行なっています。

セブンイレブンやイケアなどの運営権を取得しており、東南アジア展開を担っています。

また、ジェトロの調査によれば、香港のスーパーマーケット市場はDairy Farmと「A.S. WATSONS」社の2社複占状態になっていると言われています。

ジェトロ「香港食品市場の現状とそのヒント」

Dairy Farm傘下のwellcomeは香港に280店舗も出店しており、圧倒的なシェアを誇っています。

そのほかにも13ブランドのスーパーマーケットを抱えており、Dairy Farmの売上は50%以上がスーパーマーケットによるものとなっています。


自動車販売が事業部門の業績をけん引

事業部門である「ジャーディン・マセソン」についても詳しく見ていきます。


事業部門では3つの子会社を抱えており、建設や物流など様々な事業を展開する「Jardine Pacific」と自動車事業「Jardine Motors」は100%子会社です。

保険ブローカー「Jardine Lloyd Thompson」は持株比率が41%であるため、連結決算には含まれていません。


「Jardine Pacific」

「Jardine Pacific」では様々な事業を自社で展開しています。


Jardine Pacific

香港で60年以上の歴史を持つ建設会社「Gammon」、航空会社「Jardine Aviation Services」、重機械を製造する「Jardine Engineering Corporation」が中核。

そのほか、ピザハットの香港フランチャイズを展開する「Jardine Restaurant Group」、ITコンサルティングサービスを提供する「JTH」など、香港国内で様々な事業を展開しています。


「Jardine Motors」 

カーディーラーである「Jardine Motors」は、アストン・マーチンやBMW、アウディ、ポルシェなど様々なブランドを取り扱っています。

Jardine Motors

Jardine Motorsはイギリスに拠点があり、国内外に70店舗以上を構えています。

中でも関係性が深いのがメルセデス・ベンツです。

 「Zung Fu」は香港のメルセデス・ベンツ販売代理店で、中国本土で31店舗を運営しています。

香港はメルセデス・ベンツのシェアが世界で最も高いマーケットとして最重要視されています。

売上構成比を見てみると自動車部門が「ジャーディン・マセソン」の業績をけん引しています。

「Jardine Motors」の売上は右肩上がりに増加しており、2017年は55億ドルとなっています。

一方、「Jardine Pacific」は25億ドルで横ばいが続いています。


資産全体の40%が投資不動産

最後にジャーディン・マセソン・グループ全体の財政状態をチェックしていきます。

売上原価率は75%前後で推移しており、2017年は76.2%となっています。

販管費は16.8%でこちらも横ばい。

販促費は11.3%と直近6年間は上昇傾向にあります。


バランスシートも見ていきます。

総資産831.6億ドルのうち、現金・金融資産の合計は87.9億ドル。

投資不動産が341.2億ドルと資産全体の40%を占めています。

資産の調達元である負債・純資産を確認してみると、利益・その他剰余金(Revenue and other reserves)が306.8億ドルまで積み上がっています。

借入による資金調達は136.8億ドルほど。

営業キャッシュフローは安定的にプラスとなっています。

直近3年間はフリーキャッシュフローが増加しており、2017年は29.4億ドルを稼ぎ出しています。


シンガポール証券取引所での株価推移をチェックしてみます。

2009年以降に上昇傾向となっており、現在の時価総額は428.5億ドルです。

キャッシュ87.9億ドルと借入金136.8億ドルを加味した企業価値(EV)は477.4億ドル。

年間フリーキャッシュフロー29.4億ドルに対して16.2年分の評価を受けている計算となります。


グループ全体としては日本の総合商社に似ている印象ですが、事業ポートフォリオを見ると資源への依存度はかなり低め。

今後も東南アジア経済が成長していく中で「Astra International」と「Dairy Farm」という市場支配力を持つ2社がどこまで業績を拡大していくのか非常に楽しみです。


参考

JETRO「インドネシア自動車産業の行方を占う5つのトピック」

外資系小売業の東南アジア食品小売市場開拓 ―デイリーファームインターナショナルをケースとして―

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