【書評】Airbnb Story - エアビーが300億ドル企業にまで成長した要因は何か

2017年07月20日 20:22

「シェアリング・エコノミー」の代表格の一つとされる部屋のマーケットプレイスAirbnbは、今や世界191カ国の6万5000以上の都市で、300万を超える物件を掲載しています。



会社の評価額は300億ドルとも言われ、同社の発展を描いた「Airbnb Story」も評判がよかったので読んでみました。

Airbnbのはじまりは、2007年の国際デザイン会議が開かれたときです。サンフランシスコのホテルはどこもいっぱいになり、創業メンバーのブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアは、空いている部屋にエアマットレスを置いて、貸し出してみることにしました。

著者はフォーチュン・マガジンの編集者で、チェスキーらが2008年の大統領選挙期間中に「オバマ・オー」と「キャプテン・マケイン」というシリアルを売り出し、話題になっていたときに彼らのことを短い記事にしました。それから1-2年後、彼らのことが度々話題になるようになったものの、当時すでにホームアウェイドットコム、カウチサーフィン、ベッドアンドブレックファーストドットコムなど、似たようなサービスは多くあり、何が違うのかよくわからなかったそうです。

確かに、言われてみればそれらのサービスと何が違うのかよくわかりません。カウチサーフィンとか無料で泊まれるし、日本のバックパッカーたちにも人気です。どうしてそれらのサービスではなく、Airbnbだけがこれほど巨大になったのか。それを考えながら読んでみました。

Airbnbの主なマイルストーン

まず、Airbnbがどんな進化を辿ってきたかを少し確認します。

2004年の夏

ブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアはRISDが主催するコン・エアー社(ヘア・ドライヤーなどのメーカー)のデザイン・プロジェクトで初めて一緒にコンビを組みます。周囲が必死でヘア・ドライヤーをデザインする中、二人は「石けんでできた洗い流せるシャツ」のような突飛な製品をプレゼンしたそうです。

RISDを卒業後、二人は一旦別々の道を歩んだものの、「何か作れるアイデアはないか」というディスカッションを続けました。

2007年

ルームメイトに出て行かれ、賃上げまでされて家賃が支払えなくなったゲビアは、ロサンゼルスで働くチェスキーにサンフランシスコに来るよう誘いました。チェスキーがルームメイトとなってもまだ家賃は支払えず、そこで考えたのが国際デザイン会議に合わせた民宿のアイデアでした。

早速ウェブサイトを作り始め、その時提供したベッドが「エアベッド」だったことから「エアベッド&ブレックファスト」と命名。

民泊サービスをとりあえずの小遣い稼ぎとして「本命のアイデア」を探すも、結局「エアベッド&ブレックファスト」に落ち着いたそうです。

2008年 シリアル作戦とYコンビネーターへの応募

コンセプトを国際会議のための宿泊だけでなく「ホテル予約と同じくらい簡単に誰かの部屋を予約できるサイト」に広げ、支払いシステムやレビューシステムなどプロダクトの改善を続ける中、バラク・オバマが大統領候補に指名され注目が高まっていた民主党大会の数週間前にサイトを再び公開しました。

話題性を得るために地元の小さなブログに話題性を提供すると、それがドミノ倒しのように波及してニューヨーク・タイムズなどの有名紙にも取り上げられるまでになり、800人が部屋を掲載し、80人が予約したそうです。彼らは手応えを感じたものの、党大会が終わると誰も使わなくなりました。

次に、新しいマーケティング作戦として、ホストに朝食を送りつけ、それをゲストに渡してもらうという作戦を考えました。定価1ドルのシリアルを1000個買い、オリジナルの箱の中に詰め直して「コレクター限定品」として40ドルで販売。マスコミに声をかけ取り上げられると、オバマ・オーは三日で売り切れてイーベイなどで350ドルもの値がついたとのこと。

シリアル作戦は2万ドル以上売り上げたものの、本業への効果は薄く、売れ残ったキャプテン・マケインを食べて生き延びることとなりました。

11月、兼ねてから相談に乗ってもらっていた先輩起業家のマイケル・サイベルに「Yコンビネーターに応募してみろ」と言われて応募。面接を行ったポール・グレアムは「問題外だ」と思ったそうですが、ゲビアが苦し紛れにシリアル作戦の話をしたところ、そのゴキブリのような生命力を評価して合格にしたそうです。

2009年4月 セコイアからの投資

Yコンビネーターに採用されてからもいろんな投資家に断られ続けていたが、その間にも地道な改善を続け、一日20もの予約が行われるまで成長。やがて週に1000ドルほどは稼げるようになります。

そんな中、ポール・グレアムの紹介でベンチャーキャピタルの名門「セコイア・キャピタル」のグレッグ・マカドゥーと会います。マカドゥーはちょうど貸し別荘ビジネスを1年以上研究していたところで、真剣に興味を持ちました。

数週間後、セコイアは58万5000ドルの出資を実行し、ユーニバシーティ・ベンチャーズの3万ドルと合わせて合計61万5000ドルを調達。会社の評価額は240万ドルとなりました。

2010年 グレイロック・パートナーズからの投資

2010年から2011年にかけて、予約数が800%増加しました。この間、最大の難問は成長を生み出すことではなく、「成長に追いつく」つまり単にシステムを稼働させ続けることだったとのこと。2010年春にはリンクトインの創業者で、グレイロック・パートナーズを運営するリード・ホフマンとも会うことになり、11月には720万ドルの資金を調達した。

2011年7月にはアンドリーセン・ホロウィッツが率いる1億1200万ドルの投資ラウンドを確定させ、会社の評価額は12億ドルに跳ね上がり、いわゆる「ユニコーン企業」の仲間入りをします。

Airbnbがこれだけ大きくなった5つの理由

本書を読む中で見えてきた、Airbnbの成功要因について考えてみます。

① 経済的な要因

まず、Airbnbは金融危機の直後に生まれたサービスです。

そんな中でAirbnbは普通の人たちに、自分の部屋を貸し出すことでお金を稼ぐ方法を与えました。そしてもちろん、借りる側にとってもこれまでよりはるかに手頃に旅行できるようにしました。サンフランシスコの不動産が狂ったように値上がりしていたこととも関係があるかもしれません。

とにかく、Airbnbは「借り手」と「貸し手」の双方に決して小さくない経済的メリットをもたらしている。この点がまず大きいと考えます。

② それまでにない「特別な体験」

Airbnbが成功したもう一つの要因として、「手作り感のある旅行」という特別な体験を提供したことが挙げられます。

Airbnbの初期ユーザーはそのほとんどがいわゆる「ミレニアル世代」の若者だったそうです(ミレニアル世代:1980年代から2000年代初頭に生まれた世代)。ミレニアム世代の人生は、一人暮らし世帯が増え、仕事に埋もれ、イヤフォンで周囲の音を遮り、スマホに没入するという、ある意味で「人類史上かつてないほど繋がりが薄くなった時代」です。

そんな中で自然な「人との繋がり感」を提供したのがAirbnbです。実際、彼らは「世界中を居場所にする (Belong Anywhere) 」という壮大なコンセプトを掲げています。こういったコンセプトが、デジタル化された社会を生きるミレニアム世代に刺さったのではないかと考えます。

チェスキーの祖父は、Airbnbのアイデアを聞くと「昔はみんなそうしていたからなあ」とうなづいたそうです。インターネット以前の時代には「当然のこと」だったことが、現代には「難しいこと」になっていたというある種の歪みが彼らの成功に繋がったのかもしれません。

③ 構造的な強み

Airbnbには、大きな構造的強みが少なくとも二つあります。

一つは「スケーラビリティ」です。大きなイベントなど、一時的にニーズが増大するとき、既存の宿泊施設だったら一杯になるだけですが、Airbnbの場合は、ホストの物件掲載数が増減します。

もう一つは、「グローバルレベルでのネットワーク効果」です。例えばUberの場合、新しい国や地域に参入しようとする場合、とても大きな初期投資が必要です。一方、Airbnbの場合は、部屋を貸してくれるホストさえいればよいので、必要な投資ははるかに小さくてすみます。Airbnbを気に入ったユーザーは、どこに行く場合にもやはりAirbnbを利用するため、世界レベルでネットワーク効果が効く構造になっていると言えます。Uberは2016年の上期だけで12億ドルを失っている一方、Airbnbが8年間で拡大に使った費用は3億ドルに満たないそうです。

2016年の売上は16億ドルに達し、キャッシュフローも黒字化することを見込んでいるとのことです。

また、商業ホテルではビジネス的に成り立たないような場所(市街地など)にも物件を持つことができるという強みもあります。

④ 洗練されたプロダクト

チェスキーとゲビアは、プロダクトの中で以下のポイントにこだわっているそうです。

・なめらかに動くこと

・簡単に使えること

・掲載物件が美しく見えること

・必ず3クリック以内で予約が完了すること

最後の「3クリックルール」は、スティーブ・ジョブズがiPodを手に入れる際、3クリックで楽曲が手に入るようにしたのを取り入れたようです。デザイナーならではの視点です。

デザイナー出身の二人の創業者にとって、ウェブサイトだけにとどまらない総合的な体験を設計することが「デザイン」です。そのことが、ユーザーの体験を究極に最適化することに類を見ないほど役立っているようです。

また、ゲストとホストのプロフィールや写真、レビューシステムなどを緻密に取り入れたことが、サービス全体の安全性を高めることにつながりました。2011年までは、大きな事件は一つも起こらなかったとのことです。

⑤ 創業メンバーの強み

上に挙げた条件はどれもAirbnbの成功に大きく関わったことと思います。しかし、やはり成功の最も大きな要因となったのはブライアン・チェスキー、ジョー・ゲビア、ネイサン・ブレチャージクの三人がもつ特殊な性質だということは間違いありません。

Yコンビネーターのポール・グレアムは、Airbnbへの投資を決定した要因として、「4ドルのシリアルを40ドルを売れるなら、他人のベッドで寝るようにみんなを説得できるだろうと思った」と述べています。

上の発言もそうですが、創業期の彼らの「厚かましさ」と「押しの強さ」はハンパなものではありません。チェスキーは「何度もローンチ」する中で何度でもテッククランチなどをはじめとしたメディアにプッシュしまくっていたようですし、「シリアル作戦」のときに地元のブログメディアにプッシュした結果、フォーブズやニューヨークタイムズに取り上げられるまでに波及させたのは見事としか言いようがありません。

そもそも、自分たちの家賃をやりくりするために考えたアイデアを「そんなのありえない、危険だ」と言われながらゴリ押しし続けている時点で、かなり押しの強い人たちだということは容易に想像できます。創業期は落ち込んだりしていたようですが。

この点に関して、リンクトイン創業者のリード・ホフマンは興味深いコメントをしています。

マーケットプレイス型の事業では創業フェーズで「誰も使ってないから誰も使わない」という問題にぶち当たりますが、それを解決するにはちまちまと根気強く続けるしかないのだと思います。そして、それは誰にでもできることではありません。

創業メンバーとは少し離れますが、「シリコンバレーのエコシステム」もすごいなと思わされました。彼らの事業にアドバイスしたのは、起業家として大きな実績のあるマイケル・サイベルに始まり、セコイアのグレッグ・マカドゥー、リード・ホフマン、マーク・ザッカーバーグ、イーベイCEOのジョン・ドナヒューにいたるまでそうそうたるメンツです。

創業から規模拡大にいたるまで、Airbnbはあらゆるトラブルにぶち当たってきたようですが、その度に彼らに相談することで問題解決をしてきました。Stockclipの立場としては、エアビーは利益も出ていて上場も近そうなので、詳細な決算情報を早く知りたいところですね。楽しみです。

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